テレビの前の映画全盛のころ。増岡さんが映画にハマったのは、学生時代のことらしい。 「僕らの青春時代は、すごくフランス映画全盛の頃でホントに映画は良く見に行きましてね。1日で掛け持ちで行ったり。渋谷に10円でニュースだけ観られる「東急ジャーナル」とかあったり、日活映画は上野のほうで安く観られたり、新宿にもたくさんありました。その頃はフランス映画が主流でしたね。その影響で僕は『恋人達』っていう、ルイ・マル監督の映画が好きになって。その中でシトロエンの蒲鉾型の”2VC”、「2馬力」という意味なんだそうですけど、もうフランスの大衆車も良いところですよね、その車が登場して。それに平然と乗っているのを観て「あの車良いなぁ、ああいう車はいいなぁ」と、もう憧れちゃって。その車に惹かれて何とか手に入れたくて、でも稼ぎはないし…。それでもガンバって29歳の時に初めてその車を手にしました。実は未だにその車、乗っております! 同じ型の車ではなくて、その車ですよ」

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「えー!!」
 思わず叫んでしまった。増岡さんが29歳と言うと今から、……36年前!! いくら増岡さんが物を大事にする人とは言え、30年以上も前の車に乗っているなんて信じられない! そもそも自動車が30年以上もモツものだなんて、思ってもいなかった。
「もう走行距離は何万キロくらいなのか分からないですね。1965年型で昭和40年式です。6ボルトで、今は6ボルトって車はないんですけど、暗いんですよね、明かりがね。塗装も自分で塗り替えて、幌も自分で作って座席も自分で作って。今はほとんど車庫に入ったままですが、走ろうと思えば3ヶ月くらい乗ってなくてもパッと一発でエンジンはかかりますよ。そう言う点ではなかなか大変な車ですね。ただ途中で止まったりするとね、なかなかエンジンがかからなくなっちゃうんですよね。だから、食事に行ったりすると30分から1時間くらい、駐車場にエンジンかけたままにして置いて行くんです。一度止まるとなかなか、かからないんですよ(笑)。誰か持っていかないかな? と思ったりもするけど持っていかないんですね(笑)。鍵ももちろんないんですよ。ガソリンの蓋はクリープの蓋か何かで(笑)。でもね、良い車ですよ。18馬力しかないので最高速度80キロくらいなんですけど、山でも走って行きますね。自分の命を、家族の命を乗せるこういう大事なもの、自分の家だとか車だとか、こういう基本的なものはとっても大事にして、僕は贅沢をしているんですね。高かったんですよ、その当時で65万円くらいですから、今なら10倍くらいでしょうか? 600万円くらいと思ってもいいんじゃないかな。そのくらい高かったですね。昔は収入の割りに高かったですからね、車は。非常に贅沢で台数も少なくて。車を持っている家がすごく少なくてね」
 本当に嬉しそうに話す増岡さん、とても大事にされているのが伝わってくる。正に自分のそして大事な家族の命を乗せる大事な物・自動車、ましてやそのスタイルにも惚れてしまっている車だけに、その入れ込み具合は尋常ではないのだろう。
「買った時はもう嬉しくて。12月26日に手に入ったんですね、女房とふたりで「どこか行こう!」って信州のほうまで行って、やっと夢が叶ったって。そうしたら雪がちらちら降ってきちゃってね。坂道を、滑らないんですけど、上がらないんですよね。坂の下からう〜んと勢いを付けてバーッと行かないと、上がれないんですよ。でも、坂の下に信号があってそこから昇るとなると力が弱いですからね、まして雪が降っていると上まで上がりきれなくて。困りましてね、で、ふたりで車の向きを変えて途中から降りてきたんですよ。ほかの車が来ないを見計らって、ぐるーっと回して、持ち上がるんですよ。これが思ったよりも軽いんですよ。リアカーよりちょっと重いくらい」
 そんなに軽い自動車って、本当に自動車ですか?
「この前も家の2Hくらい手前でエンジンが止まっちゃって、どうしてもかからない。ひとりで押して家まで帰って来ました。でも、窓を開けてハンドル持ちながらすーっと、ちょっと寄りかかるくらいの力で、動き出したら結構楽。ただ車が通る道はマズイんで、住宅地の道を通ってね。やっぱり珍しいんでしょうね。「どうしたんですか? 押しましょうか?」って見ず知らずの人ですけど何人かが押してくれたんですよ。ああ、世の中捨てたモンじゃないなって(笑)」
 意外なところで現代人にもまだ人情が残っていることを確認できたわけですね。それは、愛情をかけてくれた車からの恩返しかも。って、ちょっと良いふうに取りすぎ?
「良い車ですよ。フランス人の合理性、子供のアイディアのようなアイディアがあって、それがフランスの合理主義ととっても合っててね。ユニークなんですよ、その発想がね。「猫は屋根に登って何故落ちないんだろう?」って、そこから車を発想するんです。屋根は傾いているのに…それは片方の足を伸ばして歩くからですよね。2CVもそうなんですよ。坂道に止めておいても、傾かない。足を伸ばすんですよ(笑)。いつも水平になろうとしているんです。前輪駆動で、日本のタイヤですと曲がる時はただ方向を変えるだけですけど、2CVはハンドルを切るとタイヤ自体が斜めに傾くんです。人間が走って曲がるときに体を傾けるのと同じで、タイヤが傾くんですよ。すごいじゃないですか。発想がすごいなぁって。本当にそういう点では大した車だなって。そして、そういう車に出会えたことがまた、嬉しいですね」

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 生き物のみならず、機械にも愛情を惜しみなく注ぐ増岡さん。その愛情はご自宅にも同じように注がれていた。
「今住んでいる家も自分で作ったんですよ。もう今を去ること28年前ですね、作ったのは。15年程前に建て増しをしまして未だに作り続けていると言えば、そうですが…。カナダ杉を使ったカナディアンシダーハウスなんです。材料を買って組み立てただけなんで、僕が家を設計したっていうわけでは無いんですが。昔流行ったブロックみたいなもんです。ログハウスですね。
 何も塗らない木が一番良いですね。作りたてはカナダと同じ木の板で屋根を葺いていたんですけど、やっぱり日本じゃ湿気が多いんで木が腐ってしまって、今は人造瓦に変えてます。これはなかなか自分では切れないので専門の業者さんにやってもらいました、ちょっと悔しいんですけど」
 やるからには全て自分の手で完成させたい、とは意外と負けず嫌いだったりして。
「高いところは前は平気だったんですけど、今は怖いですね。屋根の上は7mくらいあるんですよね、その上に自分が立つモンですから怖くてね。あの高いところで夢中になってやっていると「う!」と落ちかけたりね、怖いですよ。やはり命綱を付けないとね。若い時は平気でやってましたけど、今は怖いですね。よく日本でも建築現場とかで転落事故があるんですね。転落に関するビデオとかで僕もナレーションをさせていただいたし、分かるんですね。年間300人くらいが亡くなるんです。日常の心がふっと緩むその瞬間とか、注意がどこかに行っている時とか、魔が差したようにね…」
 色々なお仕事をされている増岡さん、そんな転落事故の現状も詳しいとは。しかも実体験にも繋がっているから、説得力のあるナレーションだったに違いない。前編でもお伝えしたように本当に色々なことを経験されてることに、人生の先輩として増岡さんには敬意を表さずにはいられない。増岡さんは”俳優の中では少し変わった生き方してる”とご自分でもおっしゃるけれど、人生は何もない平穏無事も良いかも知れないけれど、いろいろあったほうが何か楽しそうですね、増岡さん。
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