「僕は田舎に育ちましたからね、動物と一緒に。豚も山羊もうさぎも飼い、鶏は放し飼いで…。昔ですから食料もなくタンパク質がなくなると、父親が山羊を殺してそれを食べたりね。これは家族を思っての事ですが、恨みましたね。「かわいがっていた山羊をなんで食べるんだろう?」って。鶏も卵を産まなくなると、いつの間にか煮込みうどんの中に入っていたりとか。そういう必死な生き方の中で、今これだけ食料が豊になるとやはり動物との関わり方が違ってきますよね。元々「いただきます」と言うのは「あなたの命をいただきます」という意味の言葉らしいんですよね。本来はひとつの大切な命に対する言葉であって、単に記号ではないんです。そう言う意味が少し分かる時代に育ちましたので、そういう点では動物との関わり方が今よりも強かったですね。今は食料にも困っていないし、必死の思いがないから山羊を殺すなんてとても出来ませんよね。鶏だって出来ないでしょうね、たぶん。夜店で買ってきたひよこがだんだん大きくなって、しょうがないから殺して食べようなんて言っても、とても…。実際、別の飼い方をした関わりのない鶏は食べるわけですよ。でもいざ自分が関わると、なかなか出来ない。つまり関わった分だけ愛情が増すわけですね」
 あぁ、そうでした。何気なく食べている食事、あまりにも何も考えずに食べていました。これからは、もっと感謝の気持ちを持って”命を”いただきます。
 増岡さんの熱い口調はまだまだ止まらない。物静かなその外見と声からは想像出来なかった、その胸の中にある熱い想い。今一体どれくらいの人が動物との関わり方を真剣に考えてペットを飼っているのだろう? しかし、この”関わり方”、動物ばかりではないと増岡さんはおっしゃる。
「今、この関わり方が世の中少ないんじゃないかなと思います。殺したり殺されたり。昔はお父さんと息子、あるいは娘で御銚子で差しつ差されつ「どうだ一杯、お前もいくか? もっと飲め」なんてありましたね。杯で”差しつ差されつ”が、今は包丁で”刺しつ刺されつ”。それは関わりが無いからですよね。子供が小さいうちから保育園に、そして学校では給食と、みんな親子の関わりが少なくなって…やっぱり関わりですよ。動物もそうですが人間の関わり方も、とっても希薄になってしまったような気がします。関わったら関わっただけ…愛情が増すのに」
 とても悲しそうに、そして憤りを込めて増岡さんは語る。確かに自分が子供の頃、割と親に相手をしてもらった覚えがある。記憶が薄い幼い頃はその写真に、仕事で忙しかっただろうに色々な所へ連れて行ってくれた痕跡を見ることが出来る。記憶していることでは日曜日に父親とキャッチボールをした覚えもある、兄弟のみならず近所の友達も一緒に車で出かけた覚えもある。25年程も前のことになるが、やはり今とは違うと思う。学習塾もまだあまり盛んでは無かった頃だ。勉強よりは遊びを大切にしてくれていたのかも知れない。


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「趣味でお味噌を手作りしているんです」
突然お味噌の話ですか?
「皆さんよくおっしゃるんですけど「作るとおいしいんだよね!」って。そうなんです、作るからおいしいんです。おいしいから作るんじゃないんですよ。作ったから、関わったからその分だけ愛情が増しておいしく感ずる、と言うことです。そういう手間暇をかけることを今はしなくなってしまって…。一番ものを粗末にする、一番いけないことは作らないことですね。「家庭の味が無くなった」って言いますけど、家庭の”味”が無くなったんではなくて、”家庭”が無くなったんですよ。日本中から家庭がなくなりますよ、と思う程、こんな過激な言葉が出る程、”味”が借り物になってきているんです。やっぱり、人間はもっと必死で生きなければいけないですよね」  物が溢れている現代で、必死に生きるとはどういうことなんだろう? 自分で作れるものは自分で作る? けれども驚く程あらゆる物が周りに存在する。「これは自分で作れる」と気付くこともなく、存在すること自体が当たり前に思える今、どこから始めたらいいんだろう? 増岡さんは自分の食べるものから作っているそうだ。自給率100%を誇るそれは、野菜。もちろん無農薬。その60%を海外からの輸入に頼っている日本において、栽培品種約60種を一切の農薬を使わずに育て上げ、野菜自給率が100%の増岡さん。かなり手間暇をかけているようだ。

  「そうですね。田舎育ちのせいか自分で作れるものは自分で作ろうと。父親が昔口癖で「いいか弘、100の事をするから百姓と言うんだぞ」って。それは何でも作りましたね。納屋を作って修理もし、屋根も直し、鍛冶屋のようなこともし、いろんな事をしながら米も麦も粟(あわ)も稗(ひえ)もトウモロコシも里芋もジャガイモも綿も作って、その綿の実から油を絞って、その綿で子供達の布団まで作るという自給自足の生活をしていましたから。だから物を作る事が当たり前のことで。そうやって額に汗して一生懸命働くのを見ていましたから、今仕事の合間にそう言うことをしても何の苦もないんですよね。苦もないというか楽しくて楽しくてね。物が育つということはこういうことなのかなっと思って。面白いですよ」
 ニッコリと微笑む増岡さんは、本当にお百姓さんを楽しんでいるようだ。もちろん増岡さんの畑は完全無農薬?
「もちろんです。虫も付いて穴だらけです。キャベツなんかはナメクジが付いていたりして、でもそれは洗えば良いわけです。女房なんて始めのうちは「うわ! だめだ〜」って言ってましたけど、もうパッと取れるようになりましたよ。確かにあんまり気持ちのいい物ではありませんけど、でも人の命には替えられません。何枚か剥くとね全然綺麗ですから大丈夫。そういう安全な物を。少しずつそういう傾向が出てきてますね。肥料の表示をするのはものすごく厳しいんですよ。ものすごく厳しい。でも、それをクリアして無農薬野菜を頑張って作っているお百姓さんがたくさん出てきましたね。だから、少しずつ良くなるんでしょう」
 農薬に関する知識はまさにプロ! 現在主流になっている浸透移行性の農薬の恐ろしさ、土地自体に農薬が蓄積されさらに人体にも多大な影響を与えているその恐ろしさを教えてくれた。更に増岡さんは遺伝子組み替えにも難色を示した。
「面倒くさくなって全部種ごと毒にしようとういのが、遺伝子組み替え。もう植物の中に昆虫が食べたら死ぬような遺伝子を入れちゃうわけですよね」
 正に目から鱗状態。でも、そんな怖い話ばかりじゃない。私たちは食べることが出来ないかも知れないけれど、本当の野菜の味も教えてくれた。

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