それじゃぁ、勉強は嫌いだったとか? 「勉強はしなかったですね」 嫌いとは言わない。この辺にポイントがあるような気がする。高校は中学からのエスカレーター式だったので、大学受験が初めてだったそうだが… 「受験ていうのがすっごい楽しかったですね。ずーっと勉強しなかったから大学を落ちまくったんですよ」 平皿に盛られた料理をつまみながら、なぜか嬉しそうに話す。受験に失敗したのに楽しかった? どうして? 「浪人して親は大激怒で「ふざけんな! 勉強もしないでなんだ! 働け!」って。そりゃあそうだよなって思って。でも浪人した1年間勉強しまくった訳ではないんです。予備校に行って」 そこで、気がついちゃったらしい。 「今だに引きずってるくらい面白い」 何が面白いってそう、”勉強が面白い”って。ここがターニングポイント? 「こんなに面白いものだったら、なんで俺は勉強をもっとしておかなかったんだろうって。だって、理屈で考えると当たり前なんですよ。学問って分野がある訳じゃないですか。面白いから研究した人がいたんであって、面白いに決まっているんですよ。面白くなかったらやらないですよ、人間は。学問って人生にいらないってみんな言うじゃないですか、数学とかいらないとか。いらないんですよ、当たり前なんです。面白いからやっているんです。すんごい面白い」 彼は身を乗り出して熱く語り、言い切ってしまう。初めて聞くその理論、言われてみればもっともだ。でもそこまで学問の面白さが解る人って、やっぱり世の中にはそんなにいないんじゃないかな? まあ、知らないことを知って知識が増える面白さくらいなら解らなくもないけれど… 「確かに知識の面白さってあるとは思うんだけど、それよりは”考え方”っていうか。ただ、勉強をしたか? って言われるとそれも”?”なんですよね。今まで勉強してなかったヤツがいきなり勉強始めたのか? っていうと”?”なんですよ」 いわゆるガリ勉タイプではなかったみたい。”考え方”を理解してしまったことが大きいのかな? 勉強にはやっぱりコツがあるらしい。ん? どっかで聞いたセリフだな? 「これほど映画を観た時期はなかった、年間500本くらい観た。当時オールナイトはよくあるし、2本立ての名画座とかもあった頃だから。浪人の時、大学1年、2年と、ほら、する事ないから」 ??浪人しているのに映画三昧? 次の煙草を取り出しながら彼は、がむしゃらに勉強している人が激怒しそうなくらいアッサリと浪人時代を語ってしまう。 また入り口の引き戸が小さく開いた。女性客が空席を探すように店内を見回す。女主人が愛想良く近づき 「ごめんなさい、いっぱいなんです」 と、店の名刺を差し出す。女性客は残念そうではあるがゴネる様子もなく店を後にした。ニッコリと笑って女主人が言った。 「名刺、渡してるから大丈夫。来てくれただけでいい」 「ハングル文字の看板だとなかなか一見さんは入らないよね。非常に敷居も高そうだし…」 と今日の店内の繁盛ぶりを分析する。探求心が旺盛なようだ。 そんな白倉氏の大学生時代は? 「映像に興味はありましたね。8mm映画とか撮ってたし」 もちろんビデオじゃなくて8mmフィルム。 「自主映画でしたから自分で監督、脚本、カメラも回してた。おちゃらけヒーロー変身もの。特撮はあるけど、作り物はない!訳ですよ。変身モノなんだけど(作り物がないから)カット割りと配役でカバーする。その変身シーンは特撮な訳です。エリアル合成をしたかったんですけど出来なかったんで、8mmフィルムで撮って全部1コマ1コマ写真に落としてそこで合成かけて再撮する。面倒臭い上に金がかかってしょうがない。『マトリックス』みたいじゃないですけど、スチールの連写を使ったりして。でもそれはサークル活動ではないんですよ。最初に撮った8mmフィルムは大学の学園祭で掛けるためにクラスで撮ったものですね。そのためにZC-1000を買ったっていう(笑)」 これまた高らかに笑いながら話す。ZC-1000とは当時自主映画界ではかなりの名機と言われたものらしい。案の定、C氏の白倉氏を見る目が一層輝いた。 「それ、コマ撮りとか多重露出とかだいたい一通りの事が出来るんですよ」 機械もさることながらフィルムも高価だった時代のこと。 「だから、そのためにアルバイトをずっとやって、実入りが良かったのがやっぱりコンピュータ業界で。エディターから全部一式揃えなきゃいけなかったし。テストフィルムを大量に回すじゃないですか、何ひとつテストしないと解らないから」 映像好きの大学生という当時ならどこにでもいそうな姿が浮かんできたので、何だか安心してしまった。 この店の第1のオススメ・三段ばらが来た。ここへ来たらこれを食べなくてはいけないんだそうだ。ピンクと白の綺麗な肉がこれまた綺麗に皿に並べられている。これを専用の鉄板で焼いて頂くのだが、鉄板中央のニンニクがまた食欲をそそる。 白倉氏は特製味噌だれをつけサンチェに包んだ三段ばらをほおばる。その味は期待通りだったらしく、満足げな表情で数枚を平らげた。そして彼はおもむろに煙草に火を付けた。早いな、かなりのヘビースモーカーかも? いつの間にかビールを飲み終えていた。お酒もかなりいける口らしい。そしてこれまたオススメのマッコリという韓国の濁り酒を注文した。
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