すこし曇った空だが、雨は降りそうにない。平日の昼過ぎなのにやはり銀座は人が多い。OLとか、サラリーマンといった感じの人たちが。さすがに中央通りまで来ると、買い物目当てらしいおばさまの姿が目につく。お父さんが仕事をしている間にお友達とちょっと銀座でお買い物、と言った具合? これが、長年我慢して主婦を続けたお母さん達のささやかな楽しみなのかな。銀座でお買い物をするお母さん達は近所のおばちゃん達とは違って、ちょっとおしゃれに見えるのは何故だろう? 銀座って不思議な街だ。
「ところで美香ちゃん、生まれたときから茨城に住んでいるの?」
「はい。生まれも育ちも茨城です」
今年20歳の美香ちゃんが子供の頃の番組って、何があったかな? そもそもテレビは見てたほうなのかな? 結構外でお転婆してて、あんまり見てないとか…
「テレビっ子でした」
おや、意外。
「NHKをよく見てて。『ひらり』とか、おばあちゃんとずーっと見てて。物心つく頃には、やっぱりおばあちゃんと一緒に、能とか歌舞伎とか、ああいうのを訳分かんないまま見てて。ちっちゃい頃はテレビが好きだったから何でもいいんです、映っていれば。不思議な子でしたよね」
本当、不思議だわ。テレビが珍しい訳でもないだろうに…。何にでも興味があったってことかな? お気に入りの番組はあったのかな?
「好きだと思ったのは、幼稚園の年長か小学校1年のころ見てた『にこにこぷん(NHK教育)』。ぴっころがいじめられているのを見ては、妹とふたりで泣いて。「じゃじゃまるがいじめる〜」って。途中から『ドレミファどーなっつ!(NHK教育)』に変わったじゃないですか、あれはもう敵でした。「なんで『にこにこぷん』終わっちゃったの!?」って。ぴっころの人形を買ってもらって大事にしていたのを憶えていますね。こーんなちっちゃな人形なんだけど」
と、親指と人差し指で2〜3センチくらいの大きさを示した。
「人形っていう人形じゃなくてキーホルダーみたいなの。鉛筆の先にぽこってはめるようなヤツ。大きい人形よりもそっちが気に入ったんです。大きいほうを妹にあげて、ちっちゃいほうをもらって」
ふ〜ん、もしかしてミニチュア好きなのかなとも思ったが、そうでもないらしい。やっぱり男の子と外で遊んでいることが多かったようだ。
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「でもブロックとかは好きで、買ってもらって。妹はピアノが好きで、小さいけどちゃんとした音が出るのを買ってもらって。お人形も買ってもらったけど…、外で遊んでいる事が多かった。小学校6年生か中学生くらいになると、同級生の女の子はみんなリボンがかわいいとか、こういう服がかわいいとかそっちのほうを話し始めて、でもあたしは全然興味なくて。縄跳びとか一輪車とかローラーブレードとかっていうのが好きで。その分、親には(お金を)出させちゃったと思う。ほかの子だったらお洋服だったりするわけじゃないですか。そのほうがお金的にはかからないんじゃないかな? ファミコンも買ってもらって、ローラーブレード、ローラースケート、ホッピングとか一輪車…そういうのも。今思うと、結構(お金を)遣わせちゃったかなって」
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色気よりも運動? 体を動かすのが好きだった美香ちゃんは、ホッピングで近所を跳ねてたわけだ。
「今考えるとちょっと恥ずかしい」
また大きな眼を細めて、笑った。
「小学生の時秋になるとマラソンとかあって、記録カードで何キロ走りましたって、埋めていくのあるじゃないですか。あれ、いつも1番でしたよ。ああいうの、闘争本能が目覚めるんですよ。絶対1番になってやるって。縄跳びとかも」
そう、美香ちゃんは見かけによらず、相当の負けず嫌い。これは本人も認めました。
「負けず嫌いですね。勉強でも漢字の書き取りが苦手で、それでもみんなはいい点取っているから、それ見るとムカムカってきて「あたしもやるよ!」ってなる。1番が好きだったから、1番になるように努力もした。縄跳びやって、漢字の書き取りもやって。だから豆テスト毎回10点(満点)だった、最後のほうですけどね、それは」
ちょっと照れながら話す美香ちゃんの脇を、たくさんの人が行き交う。三越前の交差点ではたくさんの人がコートの襟を立てて、信号が変わるのを待っていた。
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そんなに負けず嫌いでがんばり屋さんの美香ちゃんなら、「タイムピンクがリーダー格だよ」って言われた時はかなり嬉しかったのでは? だってタイプが一緒じゃない?
「う〜ん。戦隊シリーズのピンクのイメージが”妹分”とか”かわいい”って思ってて、そういうのが演れるんだと思ってた。だから実は始めは抵抗があった…かわいく演りたかったから。それが、リーダーだって言われて「え? あたし、レッド?」って。しかもユウリは家族をなくしてとか…バックグラウンドが暗いんですよね。だから難しいな、出来るのかな〜?って。ちょっと不安だったかな」
でも、はまり役だったと思うのは私だけではないはず。あの凛々しさはやっぱり美香ちゃんのものだから。最終回が近づくに連れて、どんどん緊迫したしたシーンも増えて、美香ちゃんなりに色々悩みもあったみたい…。
「ドルネロが死ぬシーンもすごかったね」
ユウリの感情が爆発したシーンについて聴いてみた。
「あのシーンも、自分なりのユウリで演りたいって思って監督と話をしたんです。乱れるのはいいんだけど、もっと冷静でいたいって。”ドルネロが死ぬ”っていうことは、ユウリから見たら普通の死とは違うわけですよね。逆上するのは分かるけど、でもユウリならそこまで乱れないんじゃないかと思って、でも監督は「ユウリが乱れる見せ場なんだよ」って言って。…やっぱり監督も強い思い入れがあったんでしょうね。だから、今回はあれで良かったかなぁって思ってます」
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そして、視聴者的には衝撃の映像が!(ちょっと大袈裟?)竜也の胸の中でユウリが泣くなんて…びっくり!
「はははは、ちょっとこっぱずかしかった(笑)」
めちゃめちゃ、照れてますよ、美香ちゃん。
「あのロケ、ホントに寒かったんです。最初軽井沢で撮る予定だったんですけど、雪が降っちゃってダメで…。え〜っとどこだったかな? ロケバスで寝ている間に着いちゃうんで、場所憶えてないんです。とにかく、すっごい寒くて、ストーブを2台焚いて毛布にくるまっていたんですけど、寒かったですよ〜。本番でも、口が回らなくて」
あの衣装だけだと寒そうだもんね。逆に夏はすっごく暑かったりして?
「暑かった! ブーツの中に氷を入れようかと思ったくらい。冬は冬で寒くて。だからタイツを2枚くらい履いたかな。でも、どっちかっていうと夏のほうが苦手」
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和光の角を曲がって晴海通りに出た。ここにもおいしいケーキ屋さんがあって、実はどっちにしようか迷ったのだ。ホント、銀座にはおしゃれでおいしいお店が多い。ほら、このパン屋さんだっていつも行列が出来てるし…。
あれ? 美香ちゃんの姿が消えた。茶髪に衝動買いしたという白のダッフルコート、ちょこんと小さなかわいい黒のリュックを背負った姿は、この雑踏でもそんなに埋もれないと思ったのに…。
「このお店、何屋さんですかね?」
ああ、そんなところにいたのね。パステル調の薄緑色のビルの入り口のショーウインドウをのぞき込みながら、美香ちゃんが言った。そのショーウインドウには、銀座にもこういうお店があるんだ、と思わせるようなものが並んでいた。それは戦車の模型、スケールモデルってヤツ。ちょっと不思議な感じがした。
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