やはり、すぐに役者としての活動を開始したのだろうか?
「いや。ちょっと社会適合出来なかったんで、ぶらぶらしていた時期がありますけど」
18歳から23歳まで、ニューヨークで過ごした若者にとって、日本は別世界になってしまったようだ。ましてやちょっと“変わり者”的だった菊池さんにとって、日本の“普通”は、とても馴染み憎いものになっていたらしい。
「ちょっと折り合い付けるのに、スゴイ時間かかっちゃった。日本で劇団に入ったのも30歳近くになってからだし」
理想と現実のギャップに、悩まされた時期でもあったという。
「20代なんて、自分の理想と現実のギャップを埋めるために、全部使ったようなモンですね。そういうのってあるでしょ? トロは美味しいって分かっていても、自分はしめ鯖なのに、トロだと思っている時期って。しめ鯖とトロのギャップを埋めるのって大変なことじゃないですか。ニューヨークの演劇学校行ってたり、ニューヨークの一流の人の舞台を見たりすると、寿司としてはトロなわけですよ。目は肥えちゃう、舌はどんどんどん肥えちゃうんですよ。挙げ句に自分もトロかなと勘違いしてしまう、自分はまだしめ鯖なのに。この事実に気付いたときに、愕然としましたね。「ん? 僕はトロのハズでしょ?」って。見た目はトロでも、味はしめ鯖なんですよ。そういうことって、みんなあるでしょ?」
なるほど、見ていると自分もそれになったような気になるって事ですね?
「そうそう。自分も追いついた気になってくるわけですよ。でも、そうは問屋が卸さないですよね。まあ、世の中には“天才”という人が、もともとトロの人もいますけどね」
では、今もトロになるための努力を?
「最近はもう、自分でいればいいやって思ってます。こうすべきだとかが、たくさんありすぎるとツライじゃないですか。でも、若い時期はそこを通過しないと頑張れないから。俺くらいの年になると「俺は俺でいいや。大丈夫」。「それはそれとして置いておいて」みたいになりますよね」
なるほど、そして日本での演劇活動は30歳になってからというから、自分を見つめた20代、そして自分を見つけた30代ということか? いよいよここからが、役者・菊池隆則の人生ということになるが、一番初めの出演作品はなんだったのだろう?
「岸田京子さんと共演した舞台『欲望という名の列車』、あのマーロンブランドとヴィヴィアンリーの、あれでマーロン・ブランドが演ったスタンレー役を演りましたね。あれがやっぱり代表作ですね。それからだんだん外の舞台のお話しも頂けるようになって、という感じです」
ほう、ということは舞台がメインですか?
「メインというか、劇団にいるとどうしてもそうなっちゃいますよね。2年くらいやって、良い役がもらえなかったら役者を辞めようと思ってましたから」
この辺はとても現実主義?
「これじゃぁ、食えないだろう、って。それは自分に課しましたからね。劇団なんて芸能界の縮図みたいなもんじゃないですか? その中でも生き残れなかったら、芸能界でも生き残れないだろうって」
そして、今は…
「なんとか食えるんじゃないの?(笑)。これはなんとか、職業として成立するんじゃないの?って思って。映像の仕事もやり始めて、現在に至る」
おお、随分と簡単にプロフィールをまとめてしまいましたね。もっと詳しく教えて欲しいなぁ。
「CMもね、結構いいCMをたくさんやらせてもらったんですよ。ジョージアの缶コーヒー、デビット・リンチ監督の『ツイン・ピークス』版とか、キャスターマイルドボックスとか、結構メインのCMを立て続けにやらしてもらったんですよ。デビット・リンチ監督のは、30チョイ前くらい。映像の仕事を始めたばかりの頃かな。プロデューサーによっては「菊池くんは面白いね。すごいでかいコマーシャルボーンとやったかと思うと、何年かシコシコ舞台やってさ。またドカーンとコマーシャルやって」って言われるんですよ。でも、故意にそうやっているわけじゃない(笑)。そうなっちゃってるんです(笑)」
なるほど、かなりメジャーなCMに出演されている…知らず知らずのうちに見ているはずだ。
「そうそう。何かしらご覧になっていると思います。「バドワイザー」とかもやってますし。「ケンタッキー」も「キャベツー」もそうだし。「ドンブラー」もそうだし」
「???? ドンブラー?」
その聞き慣れない固有名詞に、会話が止まった、のは私だけで、菊池さんの話が止まることはなかった。
「知りません? グリコのレトルトの丼モノがあって、そのキャラクターがドンブラーっていうんですよ。で、俺、ドンブラーだったんですよ。ギター持って数寄屋橋で、写真撮らされて(笑)。「恥ずかしいな〜、これ」って想いながら(笑)。ロンドンブーツを履いて190cmくらいになっているんですよ、で、エレキギター持たされて。吼えまくるんですわ。そんなのもありましたね。(笑)」
ご存じの方はご一報いただきたい。仮面ライダーの前に既にキャラクター経験済みだったとは、これまた意外な過去が…。その他、いわゆるテレビや映画と言ったお仕事にはどんなモノがあったのか?
「映画では『Winds of God』(1993)を。元々今井チャンが、今井雅之さんが書いた舞台でしたから。パイロットの役でした。テレビでは『ふたつの愛』(1998)くらいからですね。NHKの6話連続水曜ドラマで、田中好子さんと沢田研二さんと僕と3人でやったんですよ。で、2000年の朝の連続テレビ小説『オードリー』でレギュラーで出てて。だから、ごく最近ですよね、露出は」
なるほど、いわゆる“下積み”が長い…と言いたいところだが、何せ劇団に入るのも30歳と遅かった人だから、こんなモノ、といえばこんなモノだろうか? とまあ、露出が最近の菊池さんだからこの『仮面ライダーアギト』の反応は大変なものだ。
「もう、木野っちで俺の周りは大騒ぎですわ。そんなに仲が良くないヤツからも電話ありますからね。「もしもし、元気ですか?」「誰?」「変身してますよね? 変身!」って。いいんだよ、そんなに興奮して電話掛けて来なくても(笑)。黙って見てろ! って言いたくなりますよね」
ヒートアップしている周りとは裏腹に、常にクールに現状を見極めている菊池さん。クールというか冷めているとか言うか、う〜ん、冷たいくらいの反応だ。
「俺、謎の男とか多いんですよ。名もない水夫とか、そう言う役が多いんですよ。で、『徹子の部屋』に出たときに、黒柳さんにも「あなた、本当にそういう役が多いのね」って言われたんですけど。でも、別に故意に選んでいる分けではなくて。だから、役柄同士が結びつかないんですよ。俺のホームページでも、トラ(『オードリー』)と木野薫が結びつかないんです。更にそれがイコール菊池隆則だっていうふうにも結びつかなくて。みんな探して、ようやく、やっと結びつくんですよ」
なるほど、個性的な役で共通点がない?ってことか、はたまた役柄に合わせて千の仮面を持っているのか(って、少女漫画になってしまうな)。すると、急に真面目な顔つきになり、
「真面目に役作りしているってことです」
とわざとらしく言いい、高らかに笑った。 |