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俺たちを呑み込んだまま大波はトンネルを抜けてあの調理場を抜け、
やがて陳列されたお菓子たちを容赦なく砕きながらも大広間まで抜
けると、勢いよく外へと溢れ出た。
水という水は、いつも海に還るのだ。涙もそんな海からできている。
屋敷周りに植えられた防風林に俺等は濾されるようにして留まった。
これではうどんの湯切りを思い出す。麺の氣持ちが初めて知った氣
がしてならない。濾すならちゃんと濾してよね。そんな感じか。大
量に流れ出したお菓子達が目詰まりを起こし、なかなか水がはけな
かった。しかしそうかと思うと時折栓が抜けて激流が生まれ、海向
こうまで流されそうになる。必死に樹木に掴まった。調理場から流
れ出たクリームだのこんぺーとーだのが顔身体中にびっしびし襲い
掛かってくる。もう甘いのいらない。甘党離党、ここに宣言。
ふと、ここに来る前にこの屋敷を気づかせてくれたアリさんたちを
思い出した。この濁流によって巣はおそらく壊滅状態だろう。誰か
が氣を効せて巣にフタをしていてくれていたのならいいなと思う。
指先一本で我が命を繋いでいるこの状況で、人は不思議な事をよく
も思いつくのだと我ながら感心する。水面に顔を出そうと必死にも
がくがどちらが上なのかも曖昧でとにかく流れに身を任せる。そん
な折に、アリさんのことを考えていたのだ。何故かほうっとした。
多分、アリの大軍もこのように流れに身をゆだねているのだろうと
思ったからかも知れない。
水はやがて勢いをとどめ、程なくして全員の姿が泥の中から浮かび
上がった。みんながみんな、すぶ濡れでくたくたで、べとべとで。
(クラーケンが生んだ海流ではあったのだが、溶け出したお菓子の
せいで、それはまるきり砂糖水になっていた)。
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俺のすぐ側で熱を感じたのでやおら身構えた。が、それはぬるぬる
くん(旧)の懐で、か細くも息づく逞しくも暖かいホーちゃんの、あ
るべき鳳凰の熱であった。俺は全員の数を数える。でかいやつらは
すぐに分かるが、肝心のピーマン爺の姿が何処にもない。鼓動が弾
けたように波打ちはじめる。辺りを隈無く探す。しかして遠くの草
原に、まもなく小人達に抱えられて、呑んでしまった海水をぴゅう
ぴゅうやってる彼らを見た。そこには先の驚異的な生命力のかけら
も感じられない、見窄らしくも疲れ果てた老体があるだけだった。
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そして俺は目を疑う。
子供達がどこからともなく湧いて出てきては、その老人の元へと走
り寄って行くのだった。必死に呼び掛ける子もなす術もなく狼狽し
しゃくりあげる子もいた。つまりは老人は慕われていたのだ。無理
に集めた人員ではなかったのか。
「おじいさん、おじいさん」
オルフェノクの力ってな不思議なもので。
爺様の秘めたる力が爆発的に膨張し、余波として図らずも俺がバー
ジョンアップしてしまうに至った訳だが、不思議というのは、その
時に相手の思考の一切合切が飛んでくるということだ。まるでそれ
は大粒の花粉のようであり、纏わりつき加減がおよそ氣分の良いも
のではないのだが。
では、その爺様の思惑をここに頑張って纏めてみようと思う。
「この星に後から湧いて出たくせに我が物顔で貪り尽くす人間達を、
我々は許せないのだ。我々は都合よく追いやられ、果てには無い
ものとまでされたのだ。しかしながら子供はいい。実にいいねぇ。
真っ白である。ろくな大人になる前に。この我々の姿がまだその
瞳に映り得るうちに。教育如何でどうにでもなる。我々の存在に
一切の疑問を持たずに怯えと服従 をもってあたる重要な素材は、
いずれここにて国をつくる。我々の為の巨大な国である。しかし、
数がまだ足らんのだ。今すぐに大陸中の子供を根こそぎ集めてこ
い!お前たちのようなどっちつかずの半端な物の怪どもを救って
やろうというのだぞ!」
まぁ。雰囲気的にはこんな感じである。十行で言えたのは幸運と呼
んでもいいだろう。
「鬼め……月に帰れ」
後ろの方でカグヤ君の声がした。
俺達は言わずもがなぼろぼろだ。それでもカグヤ君は戦闘体勢を整
えつつ、原っぱの爺様に向かって足を引きずる。それに氣がついた
爺様もおぼつかない足で立ち上がり、こちらを見据えた。
「…その通りだよ蛇君。ちゃあん…と伝わっているんじゃないか」
仰々しくも演じているが、辛うじて立っているのがバレバレだった。
それはそうだ、あんたが一番消耗してることだろう。
「さぁ、ニワトリもトカゲもそこの軟体動物ら間抜けな半妖怪ども、
ようく聴くんだ……君たちが大手を振って渡り歩ける大陸を作ろ
うじゃないか」
「不可能なんだよ。我々が共存を望……」カグヤ君はそれ以降言葉
を詰まらせた。彼はまだこの地に鬼を放ってしまったという負い目
を拭いきれずいるのだろう。
「ちょちょい待って。悪ぃカグヤ君、ちっとあれぇ見てくれよ」
原っぱの真ん中で、爺さんの脅しの言葉に戸惑いを見せる子供達は
その中に一人としていなかった。それはおろか、その小さい身体で
爺様の周りを守るように囲い始めたのである。
「なんと……君たち!そこを離れなさい!こっちにきなさい!」
そんなカグヤ君の呼び掛けに応える子供はない。
「…何故」カグヤ君は水たまりだらけの芝に膝をついた。ぱちゃん
と音が出たが、水はゆっくりと草の隙間に染み込んでいった。
「なあピーマン爺さん。ちゅーかあんたぁ幸せだなあ」
「・・・」爺様は顔をこわばらせた。
「爺さんよおホントのこと言えよう。今すげぇ嬉しんじゃない?」
「・・・」
「ふはははは。チビっ子っていいのなぁ、分かるわそれすげぇ分か
る。そいつらごはん食べさせて欲しくってあったかいお布団と屋
根が欲しくってあとそれと友達いーっぱい欲しーんだもんよう。
そんで、あんたそれ全部あげられたのなー。あんたすげえーわ。
ムリムリ!なあかなか無理だあ。うん。ホントすげえ」
カグヤ君もザワザワさんも、ホーちゃんもぬるぬるくんもクラーケ
ンも、ホーちゃんに鳳凰のザを明け渡した旦那さんも、小人の二人
も料理長も色白美人も、あるいはアリさんもパン屋さんも、あの南
の国も東の国もここから西の向こうの国も、そしてどこか遠くのさ
みしい国も、きっと今、耳を澄まして待っていた。
何の因果か、おっきな冬の月がピーマン爺様の頭上に煌々と輝いて
いた。満月。カグヤ君が愛した乙姫さんも無事に安寿の地を得た鬼
たちもそこにいるのだ。世界は昔のまんまひとつのままで、みんな、
耳を澄ませて待っていた。
「ちゅーかじやあよ俺が代わりに言っちゃおうかあ?」
待って。という具合に子供たちが一斉に爺様を見つめた。爺様は、
ゆっくりで、そしてちょっとどうかと思う程ちっちゃい声だったの
だけれど、それでもみんなには充分伝わるくらいに言った。
このままの一緒で嬉しいって
STAFF
Programmer : WATARU MATSUISHI
Director:HARUHITO NAKAO
Producer: NAOTO CHIBA
ケンはその後言葉を失っていた。おそらくもう話す必要がなくなっ
たと氣がついたからだと思う。彼が夢中に言葉を憶えて必死に陸を
目指したのも、多分私と同じ理由だったんだと思う。人だって人じ
ゃなくたって誰かに近づきたいという思いは同じだったんだと思う。
Mituru Karahashi
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